全国に本を届けるには(2)
さて、本を流通させるために、既存の卸ルートがあることは分かったものの、古い業界です。新規参入の条件はどこも厳しい。そんな中、石橋毅史著「まっ直ぐに本を売る」(苦楽堂)という本の中で、卸を通さずに書店に本を並べる出版社があることを知りました。
その一つが、2001年に社員2人で創業した東京の出版社トランスビュー。卸を通さず全国約2千店舗の書店と直に取引契約を結んでいます。同社に口を聞いてもらう形で、小さな出版社約50社が同様に本を流通させているそう。
6月、東京である出版社の集まりに同社の方が参加すると聞き、妊娠9ヶ月のお腹を抱えて上京しました。来てみたはものの、退職以来、スーツを着た人と名刺交換するのも久しぶりです。そもそも、私は一体何者なのか。「滋賀の田舎で喫茶店を開きつつ、本作りをしています」と説明しても、不思議な顔をされてしまいます。組織の後ろ盾が無いと心細くなってしまう己の情けなさを実感して、とほほ。
それでも目的は果たすべし。トランスビューの方を探します。出会ってみると、大変物腰の柔らかな紳士でした。直取引に興味があることを伝えると、前向きに検討してくれることを約束してくれました。能美舎にとって大きな一歩。来てよかった!
一安心した私は、力尽きて途中退席。よほど緊張していたのか、渡そうと腕に掛けていた手土産も一緒に帰宅してしまったのでした。(2018年8月・朝日新聞滋賀版)