「大音の糸取り」 女性が紡ぐ伝統の技
大音の糸取りは、「だるま」と呼ばれる座繰り機で行います。まず、85度位の熱湯が入った釜の中に、水に浸しておいた繭を入れ、お手製の糸箒で、糸口を辿ります。約20個分の繭から手繰り寄せた糸を「メガネ」と呼ばれる小さな穴に入れます。
そして上方にある「小車」と呼ばれる滑車までの間に、一本の太い糸になるように腕で摩ってよりをかけます。一本の糸に変わると、後方の「こわく」と呼ばれる道具に糸が巻き取られていきます。その間、糸を出し切った繭を釜から取り除いていきます。この作業を繰り返し、繰り返し、生糸がつくられていきます。
釜で沸かしている水は、昔から賤ヶ岳の山水です。水道水ではカルキや消毒剤が濃縮されてしまい、生糸の質が悪くなってしまうそう。今は、IHクッキングヒーターで沸かしていますが、昔は炭、その次はガス。調整が難しく、熱気もすごくて、大変だったと言います。初めての人が熱湯の中に手を入れて作業をすると、ズルんと手の皮が一皮むけてしまうんだって。
最後は、こわくに巻き取られた糸を、「おおわく」と呼ばれる糸に巻き直します。それをさらに、絡まらないように束ね直して、出荷します。大音の糸は、JR木ノ本駅側にある「丸三ハシモト株式会社」で邦楽器用の糸に最終加工され、商品になります。
糸取りのシーズンは、7月中旬まで。タオルを首にかけ、体中から汗を吹き出しながらだるまに座る女性たちの横顔は、誇らしげで、頼もしくて、輝いています。どなたでも見学できるので、是非遊びにいらしてくださいね。
(2018年7月・朝日新聞滋賀版)