
邦楽器糸老舗 手作業で仕上げる伝統の音
大音の女性たちが引いた生糸を納める邦楽器糸製造会社「丸三ハシモト」(長浜市木之本町)に、工場見学に寄せていただきました。同社は1908年創業の老舗。三味線や琴など400種類以上の楽器糸を作り、国内外の演奏家から大変重宝されています。 見学して驚いたのは、製造行程のほぼ全てが人の手で担われていること。例えば、複数の生糸を合わせて強く太くする作業は、糸にぶら下げた独楽を職人が回すことで撚り合わせる「独楽撚り」という独自の技法が採られています。他にも、ピンと張った糸の感触を指先で確かめながら、糸に残る小さな節を削り取る「節取り」や、餅を炊いて作った糊で糸の表面をムラなく覆う「糊引き」など、どの行程も一つ一つ丁寧に人が手で作業しています。 手作業にこだわるのは、機械で取ると糸質が全く異なり、受け継がれてきた音質に影響が出てしまうから。4代目橋本英宗さんは「大量生産に合わせて作業性の悪い行程を削れば、なぜ昔の音が良かったのか振り返ったときに、技術も音も二度と再生できなくなる」と言います。 また、橋本さんによると良い音を作るために「大音産の糸は特別な存在」。

「大音の糸取り」 女性が紡ぐ伝統の技
大音の糸取りは、「だるま」と呼ばれる座繰り機で行います。まず、85度位の熱湯が入った釜の中に、水に浸しておいた繭を入れ、お手製の糸箒で、糸口を辿ります。約20個分の繭から手繰り寄せた糸を「メガネ」と呼ばれる小さな穴に入れます。 そして上方にある「小車」と呼ばれる滑車までの間に、一本の太い糸になるように腕で摩ってよりをかけます。一本の糸に変わると、後方の「こわく」と呼ばれる道具に糸が巻き取られていきます。その間、糸を出し切った繭を釜から取り除いていきます。この作業を繰り返し、繰り返し、生糸がつくられていきます。 釜で沸かしている水は、昔から賤ヶ岳の山水です。水道水ではカルキや消毒剤が濃縮されてしまい、生糸の質が悪くなってしまうそう。今は、IHクッキングヒーターで沸かしていますが、昔は炭、その次はガス。調整が難しく、熱気もすごくて、大変だったと言います。初めての人が熱湯の中に手を入れて作業をすると、ズルんと手の皮が一皮むけてしまうんだって。 最後は、こわくに巻き取られた糸を、「おおわく」と呼ばれる糸に巻き直します。それをさらに、絡まらないように束ね直