
お嫁入り、出迎え温かく
山百合が咲いた日、とてもおめでたい行事がありました。村に新しいお嫁さんがやってきてくれたのです。 大音集落には、村で育った娘さんがお嫁に行くときには生家からお宮さんの鳥居まで、他から嫁入りするときには鳥居から嫁入り先の御宅まで、結婚式の前に練り歩く風習があります。 最近では歩く人は半分くらいになったそうで、嫁入りの日が決まると「お嫁さん、歩いてくれはるってよ」と村中の人が話題にし、ハレの日を心待ちにしていました。 当日の朝、花嫁さんを一目見ようと、老若男女、たくさんの人が外に出てきました。鳥居の前に車が到着し、中から花嫁さんが降り立つと、周囲からは「わぁ」と歓声が上がります。秋晴れの青空に、綿帽子の白無垢姿がなんと美しいこと!昔ながらの町並みが和装を一層引き立てます。 嫁ぎ先の御宅まで向かう道中、親戚の方々が後に続き、沿道の人たちにお菓子やお酒を振る舞いながら歩きます。顔を赤くして道端でお酌し合う男性ら、両手にお菓子を抱えて喜ぶ子どもたち。腰の曲がったおばあさんが「よう来てくれはった」と何度も繰り返し口にしていました。 お嫁さんの義母さんも「古い

被災の伊香具神社 村人の力結集
大音には、伊香津臣命いかつおみのみことをご祭神とする「伊香具神社」が鎮座されています。口伝では白鳳時代に建立と伝わり、少なくとも平安時代には、当時の朝廷によってまとめられた「延喜式神名帳」で大社として記載されるなど由緒ある神社です。 鳥居の形が全国的にも珍しく、横一列に三つの鳥居が並ぶ「三輪式鳥居」と、本体の鳥居を支える形で稚児柱のある「厳島式鳥居」が組み合わさった形で「伊香式鳥居」と呼ばれています。後方に山がそびえる一方で、かつては神社の前に入江があったとされることから、山と海の特徴を併せ持つのでは、と考えられているそうです。 9月初め、村の人たちの信心深さを知る出来事が起きました。直撃した台風21号が、境内にある樹齢200年を超える杉の大木を次々となぎ倒し、そのうちの一本が拝殿を潰してしまったのです。あまりに痛ましい光景に、よそ者の私は近寄ることも申し訳なく思いましたが、みんなは「宮さんを放っておけない」と、連日通い詰めていました。 二ヶ月が経ち、深刻だった境内も今ではすっかり片付きました。拝殿の再建など課題はありますが、61代目神主の伊香忠